2024


4月26日(金)

高田馬場は染色に関わる人達にとってなくてはならない町でした。神田や浅草に集中していた

染色職人が、澄んだ神田川の上流の水を求めて移り住むようになったのは明治になってからと

聞いています。友禅染もその頃から東京で始まったのでしょう。高田馬場駅から西武新宿線下りに

乗ると、次の駅名は下落合です。神田川と妙正寺川が合流する場所があるので落合といわれ、

上落合、中落合、西落合など広く静かな環境に染色職人が多く住むようになりました。戦前、

妙正寺川では反物を洗う風景が見られたそうです。きものを染め上げるには様々な工程があり、

高田馬場にはそれに応ずるあらゆる業者が集まっていました。染色の材料店も三軒あり、出版を

兼ねていた大きな店がバブル崩壊とともになくなり、続いてもう一軒、そして昨年は残っていた

顔料の開発や染色教室に積極的だった店も思いがけない廃業となりました。京都、金沢と並び

染色の三大産地といわれた東京、その中で高田馬場界隈も元気でした。現在は過去形でしか

語れない状態ですが、私には闊達な職人仲間の笑顔が、ついこの間のようにしか思えないのです。

早稲田大学演劇博物館
早稲田大学

仕事で高田馬場へ出かけるようになってラッキーだったのは早稲田大学演劇博物館の展示を頻繁に

観られたことです。引き染の作業場が近くにあり、高田馬場駅から”早大正門行き”のバスに乗って

終点まで行きました。演博には、荷物が少なく時間に余裕がある日を選んで寄りました。

しばらく御無沙汰でしたが、今年になって”新収蔵品展”の前期を三月に、後期を昨日観ました。

散らしの部分  初代歌川豊国筆 ”九変化図屏風”  
 早稲田大学

花柳章太郎が“風流深川唄”で着用した婚礼衣装
 花柳章太郎

前期で印象に残ったのは新派の花柳章太郎が舞台で着用した婚礼衣装でした。会場では撮影が

できませんでしたので、写真は手持ちの写真集から出しています。

後期では田中不染筆の絵看板が魅力的でした。東京劇場(東銀座)で使われた歌舞伎のような場面の

絵看板で、公演が終わると捨てられたそうです。運よく演博に飾られることになった肉筆画は、水色の

浴衣を着た偉丈夫が風呂場で数人の男と争う場面と、屋敷の縁側で上品な丸髷の妻女が武士の膝元で

泣きじゃくる場面でした。生命力があり、色気があり、しかも清涼で、解説には私が子供の頃に活躍して

いた岩田専太郎と通底するものがあると書かれ、大満足でした。

やはり高田馬場との縁を忘れずに出かけることを続けよう、演博もあり神田川の流れは益々澄んで

桜も山吹も毎年咲くのだから。


3月8日(金)

桜の開花が話題になっても良い頃ですが、今朝の東京は雪がちらついています。季節を愛でるということが、

何となく薄れつつあるように思われてなりません。

このところ暖かい日に虫干しを兼ねて箪笥からきものや帯を出し、過ぎた日々を懐かしんでいます。

帯
今回は袋帯、正装の帯です。すでに派手だと思って若い人に譲ったものもありますが、緑地の成人式用

だけは箪笥の底にしまってあります。当時成人式といえば、ほとんどの人が黒地を締めていました。

郷里の呉服店で初めて見た緑地の帯は新鮮でしたが文様の桐や菊に赤がごってりと入り、好みでは

ありませんでした。店の女将や母、祖母にすすめられて不満ながら求めることになりました。上京して、

渋谷に開業したばかりの東急百貨店本店(2023年に閉店)へ行った折、朱地で同じ文様の帯が目立つよう

ガラスケースの上に飾られていました。東急百貨店本店は日本橋の老舗、白木屋百貨店が名前を変えて

移転した店。郷里でこの帯をすすめた三人と白木屋の呪縛によって、私は手放すことができないのかも知れない。

帯
次の帯は自分で選んだ銀一色。小さな市松地紋に宝尽しの鎌倉紋。二十代半ばは地味なものに

惹かれました。

帯
やはり銀地にトルコブルーの檜垣文様、シンプルでどのようなきものにも合います。

出番の多いお気に入りです。

帯
母が黒留袖に締めていた楽器尽しの帯。展示会へ一緒に行き私が選びました。

帯
京都、桝屋高尾の本袋帯です。本袋は両端に縫い目がなく袋状に織られています。

とても軽くてやわらかいので締めやすく、快適です。

帯
源氏物語を連想させる、片輪車文様の帯。やはり若い頃に日本橋三越で求め現在ちょうど

いいのですが、何だか地味に感じています。(笑)

帯
この錆朱地の毘沙門亀甲帯も出番が多い。締めると気持ちがほっこりします。

一緒にトルコへも行きました。

帯
グレー地の帯は随分探しました。銀座の松坂屋でやっと見つけたお気に入りです。

正倉院文様で格調があるのにさりげなく、心強い帯です。

帯
1970年代後半に求め、一度しか締めていません。きもののお好きは方にはすぐ分かる

龍村平蔵氏の意匠、あけくもという名の帯です。

どの帯にも、そしてきものにも、それぞれ想い出があります。虫干しというと面倒だと思われがちですが、

昔の女性達がしたように、きものや帯を部屋中に並べ一つ一つに触れ、浸ると過ぎた日々が蘇ります。

掛け替えのない時間なのです。



1月4 日(木)
 龍文様の布
龍の布
 

元旦は快晴で、何となく明るくホッとした気分になっていたが夕方に 思いがけないことが起きた。

能登地震。次の日は日航機と海保機の炎上。

天翔る龍よ、今年の行く末は如何に……。
    
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